読んだ医学論文まとめ

現医学科6年。脳神経内科、リハビリテーション科など志望。日々の学習をアウトプットしたいと思います。医学的助言を提供するものではありません。情報の二次利用は、利用者の自己責任でお願いいたします。

高カリウム血症の治療に関する神話と誤解

American Joural of Emergency Medicineに載っていた、

Dispelling myths and misconceptions about the treatment of acute hyperkalemia

を読んだので紹介します (オープンアクセス論文です)。

著者はUCSDの救急、集中治療の医師です。

この論文は急性高カリウム血症に関して4つの「神話」の誤解を解く、という形で構成されており、内容は以下のようになっています。

神話#1 ケイキサレート®︎ (ポリスチレンスルホン酸ナトリウム:SPS)は安全で有効である
推奨:有害性がありうること、および有効性に欠くことから、SPSは急性高カリウム血症の治療にルーチンで投与すべきでない。
 
神話#2 乳酸リンゲル液は高カリウム血症では禁忌である
推奨:乳酸リンゲル液は高カリウム血症に安全であり、適している。
 
神話#3 高カリウム血症の心電図変化は予測可能で信頼できる
推奨:心電図が正常だからといって高カリウム血症を否定できない。しかし、心電図が正常ならば重篤な有害事象は起こりにくい。
 
神話#4 高カリウム血症の患者は全員カルシウム製剤で治療すべきだ
推奨:カルシウム製剤の治療は、心電図変化を呈している患者のみ適応がある。
(Am. J. Emerg. 52 (2022) 85–91 より筆者訳)
 

ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは有効性のエビデンスに乏しく、副作用もある

ケイキサレート®︎ (ポリスチレンスルホン酸ナトリウム) に関して。1958年にFDAにより承認された薬ですが、承認に際してコントロールを用いた研究や、きちんとした統計的解析は行われていませんでした。近年のRCTでは否定的なものが多いです。そのためコクランレビューでは推奨されていません。
また、消化管副作用 (腸管壊死、潰瘍など) があることも問題です。またNa含有量が多く心不全を誘発しうるのも問題です。じっさい、2020年のAHAガイドラインでも、高カリウム血症による心停止に関して、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは推奨しないとなっています。

乳酸リンゲルはK含んでいるから高K血症に禁忌、というのは誤り

SMART試験 (N Engl J Med 2018; 378 : 829 - 39.) というICU患者における生食 vs 調整晶質液(乳酸リンゲル液または Plasma-Lyte A)のRCTがあります。30日以内の複合アウトカム (死亡率、新規腎代替療法導入、腎機能障害 の発生率)をみると生食に比べて調整晶質液で良好 、という結果でした。
SMART試験の高カリウム血症やAKI患者に絞った二次解析においても、調整晶質液で腎代替療法や高カリウム血症発生率に有意差がありませんでした (Am. J. Respir. 203.10 (2021): 1322-1325.)。そもそも、乳酸リンゲルに含まれるカリウムは無視できるくらい少ないということもありますし、生食負荷→AG正常高Cl性代謝性アシドーシス→Kが細胞内から細胞外にシフトし、高カリウム血症をきたしうるということもあります。
 

「高K血症→Ca投与」を全例に行うのは誤っている

Ca製剤はあくまで心筋細胞膜の「安定化」を狙う治療です。この論文では、心電図変化がある場合にCa製剤適応となる、と結論していました。しかし、KDIGO 2020エキスパートオピニオンではK 6.5 > mEq/L の重症高カリウム血症は心電図変化がなくてもCa製剤の適応、としています。この、心電図変化がない重症高カリウム血症に関しては議論の余地があるでしょうが、少なくとも、心電図変化がない軽〜中等症 (K ≦ 6.5 mEq/L) の高カリウム血症にまでCa製剤投与しなくてよい、ということはいえるかと思います。Ca製剤は漏出すると軟部組織損傷、潰瘍形成などきたします。
 
 
参考文献 Gupta, Arnav A., et al. "Dispelling myths and misconceptions about the treatment of acute hyperkalemia." The American journal of emergency medicine 52 (2022): 85-91.