若年者の脳梗塞の原因疾患
日本人の疫学では①動脈解離②もやもや病③抗リン脂質抗体症候群で3/4を占める
日本人を対象にしたSASSY-JAPAN研究によると、疫学的に多いのは①動脈解離②もやもや病③抗リン脂質抗体症候群であり、3/4を占めるようです。
この研究は1995-99年の症例を対象としたものです。CADASILやRCVSの疾患概念は当時普及していなかったため入っていなかった、ということは十分考えられるかと思います。しかし、疾患頻度から考えてまず上位3つを鑑別すべき、ということは言えるかと思います。
教科書上の記載
福武敏夫先生の「神経症状の診かた・考えかた」にも若年者の脳梗塞についての記載があり、以下の8カテゴリーが記載されていました。
②動脈解離、③もやもや病、⑦MELASは画像所見が診断に有用な疾患、と位置付けられると思います。動脈解離ならMRA,CTAで解離を証明する、もやもや病なら脳血管造影でもやもや血管の証明が有用でしょう。MELASは動脈灌流と一致しない梗塞像を呈しますし、MRスペクトロスコピーも診断に有用かと思います。
④凝固線溶異常、⑤APS、⑥ホモシスチン尿症は血液検査が診断に有用な疾患、と位置付けられると思います。
⑧CADASILは病歴・家族歴が重要な疾患です。もちろんMRIで特徴的な多数の虚血巣を示すことも重要です。
①の血管炎が最後に残ってしまいます。血管炎の多くは治療可能であるにもかかわらず、画像所見・血液所見が出にくい、ということが言えるかと思います。原因がはっきりしない若年者脳梗塞では血管炎を考慮し、所見・病歴をとりに行く (帯状疱疹の既往、膠原病の所見、ベーチェット病の所見) ことが重要かと思います。
2022/03/13 一部加筆修正
参考文献
脳卒中, 2004, 26.2: 331-339. SASSY-JAPAN研究の論文。
福武敏夫:神経症状の診かた・考えかた: General Neurology のすすめ.: 東京,医学書院, 2017, 福武先生の教科書。確かな臨床経験に基づいた記載が素晴らしい。
自己免疫性脳炎をどのような時に疑い、どのようにアプローチするか
自己免疫性脳炎を疑う臨床所見は「精神神経症状+発作、または中枢神経巣症状」である
possible autoimmune encephalitis (自己免疫性脳炎疑い) の診断基準は以下のようになっています。
この診断基準からわかるように、自己免疫性脳炎を疑う臨床所見は「精神神経症状と、発作または中枢神経巣症状が同時にみられる」です。精神神経症状だけでは精神科疾患と区別がつきにくいかと思われますが、発作 seizure や、中枢神経巣症状などがみられる場合は精神科疾患で説明がつかず、自己免疫性脳炎を考慮すべき、と考えるべきでしょうか。
自己免疫性脳炎を疑ったときに考えるべき7項目
では自己免疫性脳炎の可能性が生じたとき、どのようにアプローチしていけばよいか。NEJMのCase records 22-2021では以下の7項目を考えるべきとしています。
参考文献
Lancet Neurol 2016; 15: 391–404 種々の診断基準が載っており、必読です。
高カリウム血症の治療に関する神話と誤解
American Joural of Emergency Medicineに載っていた、
Dispelling myths and misconceptions about the treatment of acute hyperkalemia
を読んだので紹介します (オープンアクセス論文です)。
著者はUCSDの救急、集中治療の医師です。
この論文は急性高カリウム血症に関して4つの「神話」の誤解を解く、という形で構成されており、内容は以下のようになっています。
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは有効性のエビデンスに乏しく、副作用もある
乳酸リンゲルはK含んでいるから高K血症に禁忌、というのは誤り
「高K血症→Ca投与」を全例に行うのは誤っている
Ca製剤はあくまで心筋細胞膜の「安定化」を狙う治療です。この論文では、心電図変化がある場合にCa製剤適応となる、と結論していました。しかし、KDIGO 2020エキスパートオピニオンではK 6.5 > mEq/L の重症高カリウム血症は心電図変化がなくてもCa製剤の適応、としています。この、心電図変化がない重症高カリウム血症に関しては議論の余地があるでしょうが、少なくとも、心電図変化がない軽〜中等症 (K ≦ 6.5 mEq/L) の高カリウム血症にまでCa製剤投与しなくてよい、ということはいえるかと思います。Ca製剤は漏出すると軟部組織損傷、潰瘍形成などきたします。経口血糖降下薬 (NEJM Clinical Practiceより)
経口血糖降下薬に関するNEJMのCliniacl Practice (N Engl J Med 2021; 384:1248-1260)を読みました。
要点は以下の通りです。
N Engl J Med 2021; 384:1248-1260 より筆者訳
血糖コントロール目標と細小血管症、大血管症について
糖尿病の合併症は以下の2つに大きく分かれます。
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細小血管症:網膜症、腎症、神経障害
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大血管症:冠動脈疾患、末梢動脈疾患 (PAD)、脳血管障害
血糖コントロールと糖尿病合併症の関係について、UKPDS33試験では厳格な血糖コントロールで微小血管障害は減らしたが、心筋梗塞は減らさないという結果でした。また、ACCORD試験では、強化療法 (HbA1c 6%未満) で心血管疾患による死亡、および全死亡が増加しました。日本の糖尿病診療ガイドラインでは合併症を防ぐためのHbA1c目標が7.0%とされていますが、それより下げても大血管症は予防されず、生命予後に寄与しないことが関係していることでしょうか。
ビグアナイドが第一選択であり、大血管症予防効果がある
大血管症予防に関してエビデンスがあるのはGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬である
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心血管疾患をもつ2型糖尿病患者で、リラグルチド (ビクトーザ®) とセマグルチド注射 (オゼンピック®) は心血管イベント二次予防効果あり (ビクトーザはLEADER試験、オゼンピックはSUSTAIN6試験)
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心血管高リスクの2型糖尿病患者で、デュラグルチド (トルリシティ®) は大血管症予防効果あり (REWIND試験)
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心血管疾患またはCKDのある患者で、経口セマグルチド (リベルサス®) は心血管イベントの発生に関してプラセボに非劣性であり、心血管安全性あり(PIONEER6試験)
SGLT2阻害薬に関しては、以下のようなエビデンスがあります。
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エンパグリフロジン (ジャディアンス® )は大血管症二次予防効果あり(EMPA-ROG OUTCOME試験)
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カナグリフロジン (カナグル® ) は心血管イベント発生を抑制する (二次予防症例だけでなく、一次予防症例も含まれる) (CANVAS試験)
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ダパグリフロジン (フォシーガ®) は心血管疾患による死亡や、心不全による入院を抑制する (DECLARE-TIMI58試験)
また、大血管症予防のためには個々の患者に応じて心血管リスクの軽減も重要です。運動習慣の推奨や禁煙はもちろんのこと、肥満がある患者ならば、減量効果のあるGLP-1受容体作動薬を用いる...などです。
【参考文献】
Kalyani RR. Glucose-Lowering Drugs to Reduce Cardiovascular Risk in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2021 Apr 1;384(13):1248-1260. doi: 10.1056/NEJMcp2000280. PMID: 33789013.
HFpEFに対するSGLT2阻害薬の効果はまだ載っていませんが、非常によくまとまっています。絶対必読論文です。
糖尿病トライアルベース 各臨床試験について、わかりやすくまとまっています。
オルメサルタン関連腸炎は顕微鏡的大腸炎の一種なのか?
近年、オルメサルタン関連腸炎(OAE) が注目されているようです。一方で、顕微鏡的大腸炎という疾患概念もあります。両者の関連を調べてみました。結論としては両者の疾患概念としての関連に言及した論文はないものの、恐らくOAEの多くは顕微鏡的大腸炎に含まれる、ただし顕微鏡的大腸炎の中でも重症のものである、と考えました。
以下、顕微鏡的大腸炎とオルメサルタン関連腸炎に関して調べたことをまとめます。
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年齢・性別:中年~ 高齢、女性に多い
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喫煙:水様下痢の頻度を高め、臨床的寛解達成の確率を下げる
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主症状:慢性の水様・非血性下痢 (84~100%)
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付随症状:便意切迫感 (55%)、夜間排便(35.3%)、便失禁(26.3%)のほか、体重減少や腹部膨満を呈することも
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重症水様下痢により、12kgもの体重減少と急性腎不全を呈した症例報告あり (〔日内会誌 104:1167~1174,2015)