読んだ医学論文まとめ

現医学科6年。脳神経内科、リハビリテーション科など志望。日々の学習をアウトプットしたいと思います。医学的助言を提供するものではありません。情報の二次利用は、利用者の自己責任でお願いいたします。

オルメサルタン関連腸炎は顕微鏡的大腸炎の一種なのか?

近年、オルメサルタン関連腸炎(OAE) が注目されているようです。一方で、顕微鏡的大腸炎という疾患概念もあります。両者の関連を調べてみました。結論としては両者の疾患概念としての関連に言及した論文はないものの、恐らくOAEの多くは顕微鏡的大腸炎に含まれる、ただし顕微鏡的大腸炎の中でも重症のものである、と考えました。

 

以下、顕微鏡的大腸炎とオルメサルタン関連腸炎に関して調べたことをまとめます。

顕微鏡的大腸炎
疾患概念
  • 慢性の炎症性腸疾患 (IBD) の一つ内視鏡像は正常~ ほぼ正常であり、慢性の水様・非血性下痢を呈し、特有の病理組織像を示す、という特徴をもつ疾患。
  • 病理像は①膠原線維性大腸炎 (Collagenous Colitis, CC)②リンパ球性大腸炎 (Lymphocytic Colitis, LC)③Incomplete Microscopic Colitis (MCi)にわかれる。
(United European Gastroenterol J. 2021 Feb 22;9(1):13–37. )
要するに、顕微鏡的大腸炎とは病理組織標本に基づく疾患概念です。内視鏡検査で異常なく、病理標本でリンパ球浸潤または膠原線維束がみられるときに持ち出される疾患と言ってよいでしょう。
 
危険因子
  • 年齢・性別:中年~ 高齢、女性に多い
  • 薬剤プロトンポンプ阻害薬 (PPI)、SSRI、NSAIDs、H2ブロッカー、スタチン、ACE阻害薬、ARB
    • ただし、欧州ガイドラインでは「PPI,NSAIDs, SSRIの長期的または頻回の使用は顕微鏡的大腸炎のリスクと関連するが、因果関係を示すものではない」とされる (United European Gastroenterol J. 2021 Feb 22;9(1):13–37. )
  • 自己免疫疾患:関節リウマチ、甲状腺機能亢進症・低下症、セリアック病、1型糖尿病など
  • 喫煙:水様下痢の頻度を高め、臨床的寛解達成の確率を下げる
Mayo Clin Proc. May 2021;96(5):1302-1308
 
症状
  • 主症状:慢性の水様・非血性下痢 (84~100%)
  • 付随症状:便意切迫感 (55%)、夜間排便(35.3%)、便失禁(26.3%)のほか、体重減少や腹部膨満を呈することも
United European Gastroenterol J. 2021 Feb 22;9(1):13–37.
 
診断
United European Gastroenterol J. 2021 Feb 22;9(1):13–37.
 
オルメサルタン関連腸炎
  • Rubio-Tapiaらが2012年にオルメサルタンと腸炎の関連を最初に報告(Mayo Clin Proc. August 2012;87(8):732-73)し、2013年にFDAから注意勧告
  • オルメサルタンの臨床試験参加者のうち、オルメサルタン関連腸炎と診断された患者は、全員が下痢 (3-53 カ月) と体重減少(2.5-50 kg)を呈していた (Mayo Clin Proc.  December 2012;87(12):1230-1232)
  • 重症水様下痢により、12kgもの体重減少と急性腎不全を呈した症例報告あり (〔日内会誌 104:1167~1174,2015)
 
OAEの病理組織像
  • オルメサルタン腸炎の92%で絨毛委縮がみられたとの報告がある (Arch Pathol Lab Med (2015) 139 (10): 1242–1247.)
  • オルメサルタン腸炎の62%でリンパ球浸潤が、22%で粘膜下膠原線維増加がみられたとの報告がある (Arch Pathol Lab Med (2015) 139 (10): 1242–1247.)
→病理組織像から考えると、OAEの2/3はLC、2割はCCということかもしれません(ただし、CCや LCの病理診断基準を満たしているかは記述がありませんでした)
 
2022/03/03 語句修正